ぼくのヒーローR2 第21話 みぎうで


恐怖からか、不安からか、考えるのをやめた頭は、目の前にある温もりに助けを求めた。暖かく力強い存在は、昔から安心感を与えてくれる。こいつがいれば、自分は大丈夫。二人揃えば、出来ないことなど無い。愛する妹もこいつとなら護りきれるだろう。
自分にそう思わせるほどの人間など、後にも先にも一人だけ。
残念ながらユーフェミアの騎士となってしまったが、それでもこうして傍にいてくれる。
守ろうとしてくれる。
ならば俺も守らなければ。
この男を。
守られてばかりなど性に合わないし、俺には力があるのだから。
そんな風にルルーシュが現実逃避している間にも話は進んでいた。
シュナイゼルは、スザクと同じように「シュナイゼル個人と黒の騎士団の停戦」を求めてきたため、C.C.はそれに応じた。
どこから漏れたのか、シュナイゼルはゼロ達が幼児化していることも知っており、ゼロがルルーシュで、ナナリーがアッシュフォードにいることも突き止めていた。
成程、周りを固めてから来たかとC.C.は目を細め、スザクは警戒の色を濃くした。ルルーシュは現実逃避していても、ナナリーの情報はしっかりと拾っていて、・・・ナナリー!もしナナリーに何かあったら・・・俺は・・・!と、泣きそうになっていた。
どうやらシュナイゼルの私兵が見張っていて、こちらが不穏な動きを見せれば、突入してくることになっているようだ。シュナイゼルの腕につけられた時計からバイタルチェックがされており、平常心を失い、その心拍数が異常と判断されれば、それだけで副官のカノンは突入指示をだすだろう。
万事休すと考えるべきだが、こちらのはギアスがある。
シュナイゼルの言葉を信じるなら、ここでの会話は映像で流れていない。
だから、自分に従うよう命じれば、強力な駒を手にすることが可能となる。

「それで?ブリタニアの宰相閣下が、黒の騎士団のアジトに何のようだ」
「君たちの目的はブリタニアを倒すこと。つまり皇帝を討ち、日本を開放することだね」
「ああ、そうだ。日本の開放と、ブリタニアを破壊するため戦っている」

日本を開放しただけでは終わらない。ブリタニアの侵略戦争を終わらせない限り、再び日本に攻め込んでくるからなと、ルルーシュが言いそうな事を、C.C.は口にした。
いささか棒読みなのは・・・まあ仕方ない。
スザクはブリタニア軍人だから何も話せないし、ルルーシュはこの状態だから国の解放に興味の無いC.C.がそれっぽく話すしかないのだ。

「ルルーシュ、私も侵略戦争という愚行を続ける者に、王たる資格はないと、常々思っていた」
「・・・お前・・・」

ゼロではなく、ルルーシュと甘ったるい声で呼ぶものだから、C.C.は思わず鳥肌が立ったし、スザクは完全に敵認識し、ルルーシュをギュッと抱きしめた。

「いたい!はなせ、このばかが!」
「あ、こめんルルーシュ」

思わず力を入れてしまい、苦しかったルルーシュは文句を言った。それが切っ掛けとなり、完全に立ち直ったルルーシュが、「お面をよこせ!」と言ったため、C.C.はテーブルに置いたままになっていたお面を手に取ると、いまだ毛布に隠れているルルーシュの顔につけ、フードを被せた。散々ルルーシュと呼ばれているんだからゼロのお面なんて今更だろうと思うが、できるだけシュナイゼルの目からルルーシュを隠したいため、スザクも何も言わなかった。
お面をつけたルルーシュはスザクの膝から降りると、シュナイゼルと向い合うように座った。お面で顔は見えないが、目の前いるのは最愛の弟。
シュナイゼルは傍から見てもわかるほど、幸せそうな表情になった。
いつもの胡散臭いロイヤルスマイルではなく、心の底からの歓喜の笑みだ。
うわぁ、と思わずスザクとC.C.は嫌そうな顔をしたが、すでにルルーシュしか見えていないシュナイゼルは何も言わなかった。

「わたしが、ぜろだ」
「久し振りだね、ルルーシュ」
「わたしはぜろ。るるーしゅというなまえではない!」

今まで散々ルルーシュと、スザクにまで呼ばれていたが、あくまでも別人だと言いはったため、シュナイゼルは可愛い弟の主張だとそれを受け入れることにした。

「そうだったね、失礼したゼロ」

ニコニコと熱い視線を向けながら言うので居心地が非常に悪い。

「では、本題にはいろう。君たちは、ユーフェミアを皇帝に据えるつもりだね?」
「・・・っ!どこで そのじょうほうを」
「私の情報網を甘く見ないことだよ」

知っているのはここにいる面々とユーフェミア、ミレイ、そしてナナリー。
咲世子でさえ知らない情報を一体・・・

「なるほど、とうちょうか」
「盗聴!?でも僕は」

ここに来る際には細心の注意をはらっていたのにと、顔色を悪くしたスザクに、ルルーシュはゆるく首を振ってそれは違うと否定した。

「ゆーふぇみあに しかけていたのだろう」

ルルーシュの回答に、シュナイゼルは、満足気な笑みを浮かべた。
皇位継承権争は、いつ起きるかわからない。上位の皇族は、暗殺される可能性が高くなる。だからこそ、兄弟とはいえ全てを信用することはせず、盗聴し、監視していた。
衣服につけているとは考えにくいため、おそらくは執務室のどこか、あるいは電話にでも仕掛けているのだろう。あの部屋でなら、人払いした後ユーフェミアとスザクがこの件に関し何らかの話をしていてもおかしくはないから。
シュナイゼルはここに来る前に、手にした情報の真偽を確かめるため、ユーフェミアの元へ向かったはずだ。そして、彼女が何も言わなくてもその反応で間違いないと確信し、こうして出向いてきたのだ。

「のぞみはなんだ」
「人々が望む平和な世界を作ること。そのためにも、私たちは協力すべきではないかな?」
「しんりゃくせんそうをおこなう こうていのみぎうでが、へいわをねがうと?」
「皇帝に逆らえないことは、君がよく知っているはずだ」

もし逆らえば皇位継承権を失い、政治の道具として使い捨てられる。
それを経験したルルーシュには、否定することなど出来ない。

「じょうけんはなんだ」

この男が無償で協力するなんてありえない。そう思っているルルーシュと、このブラコンはルルーシュのために動くだろうが・・・ただより高いものはないからな、絶対なにか企んでいると警戒するC.C.とスザク。

「条件は二つ。ユーフェミアが皇帝となった後も、私を宰相とすること」

有能な宰相が平和な世界を目指す皇帝に従うなら、願ってもないことだが・・胡散臭すぎて仕方がない。

「そして、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアを私の右腕とすること」

私の側にいること。
ゼロを捨て、私のために生きること。

「おもしろい、ししゃを のぞむか」
「たとえ死者でも、それ以外に私が欲しいものはないからね」

・・・絶対お断りだ。
3人から醸しだされる拒絶を感じても、ルルーシュに選択肢はないと考えているシュナイゼルは、余裕の笑みを浮かべていた。

「すざく」
「何?」
「すこし、せきを はずしてくれないか」
「何で!?」
「すぐにおわる。だから」

頼む。
そう言われてしまえば席を離れるしか無い。C.C.は退出を命じられなかったから、ここは彼女に任せるしか無いと、しぶしぶスザクは部屋を出た。
部屋にいるのはシュナイゼル、ゼロ、C.C.。

「枢木准尉に聞かれて困ることなのかな?」

邪魔者スザクがいなくなったことで、シュナイゼルはルルーシュに近づこうとしたが、C.C.がさっさとルルーシュの隣に座り、それを阻止した。

「しゅないぜる・える・ぶりたにあ」

ルルーシュは兄の名前を呼びながら、お面を外した。
柔らかな黒髪と大きな紫の瞳の愛らしい顔があらわれ、シュナイゼルは興奮から頬を染め、瞳をキラキラと輝かせた。今にも抱きついてきそうな様子に、ルルーシュは殺されるのではと若干怯え、C.C.はルルーシュを抱き上げると自分の膝の上に座らせ、シュナイゼルを牽制した。
抱きしめたいだろう、撫でたいだろう、その気持はわかるが、この天使は私のものだと睨みつけると、シュナイゼルはC.C.を敵と認識し、冷たい視線を向けた。
寒気のする視線が外れた事で、気を取り直したルルーシュは言葉を続けた。

「・・・せかいへいわのため、そのちからを わたしたちに かしてほしい。ゆーふぇみあとともに、やさしいせかいを つくってほしい。・・・るるーしゅを みぎうでにすることは あきらめることだ」

きゅいーんぴきーんと、ギアスが発動した。
シュナイゼルは通信機器は持っていないと言うが、映像は無くても会話はカノンが聞いていると考えていた。そうでなければ、緊急時にどうやって私兵を呼べるというのか。
だから、会話として問題の無い言葉を選び命じる。
スザクを退席させたのは念のためだ。

「・・・解った。仕方がないね」

ルルーシュを右腕にすることも、対価をもらう気持ちも消え去り、愛する弟の頼みだと、シュナイゼルは頷いた。むしろ対価を貰わないという事は、無償の愛という事だ。それこそ私たちの関係に相応しく、互いに深い愛情を育めるだろうと切り替えた。
さっさとお面をつけたルルーシュは、C.C.だけでは心細くてすぐにスザクを呼んだ。
黒の騎士団の秘密のアジトがあることは、絶対に口外しないことも約束させ、もし約束を違えればこちらには反皇帝派だと宣言した記録があるというカードもちらつかせるが、元々口外するつもりなど無いし、外にいるのも実はカノン一人だけなのであっさりと了承しシュナイゼルは立ち去った。
帰り際に、この奇妙な現象の解明のためという理由で、スザクとC.C.の隙をつきゼロを抱き上げ連れ帰ろうとしたシュナイゼルの態度があまりにもアレだったため、玉城達はドン引きしていた。
なにせ、抱き上げたゼロに満面の笑みで頬ずりをしたのだ。

「あいつ、やべーぞ。きっとショタコンってやつだ」

と、玉城に言わせるほどの光景で、ゼロはショックのあまり固まってしまい、あれはなんだったんだ?新手の嫌がらせ・・・精神攻撃か?と悩み、スザクとC.C.はそれを肯定。シュナイゼルは要注意だと全員に判断された。

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小さな弟のゼロゴッコにつきあいながら話を進めるシュナイゼルにしか見えないし、ルルーシュの知能どう考えても低下してる・・・。

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